2026.2.27

島根から羊飼いがやってきた。

-羊の幸せと羊毛のトレーサビリティ-

出雲大社から南に30㎞ほどの位置にある島根県大田市、三瓶山(さんぺさん)の麓で、羊を飼い、毛を刈り、洗い、テキスタイル(生地)を作る企業がある。テキスタイルブランドのKASAGIだ。

“羊との契約を結びなおす”を企業理念に掲げ、アニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮した飼育を実践、国内外から高い評価を受けている。同社の代表・デザイナーを務め、独創的な生地を作り出す笠木真衣さんがecolab cafeで展示会を行った。そのレポートと後日行ったインタビューの様子を前編と後編に分けて紹介する。

プロフィール

KASAGI 代表・デザイナー 笠木真衣さん
神奈川県出身。羊毛が紡がれ糸になることに深い感銘を受け、2009年からクラフト的手法を学び始める。10年間、ウール加工に関する様々な技法をほぼ独学で学び、2020年より島根県大田市にある三瓶山で羊の放牧をはじめる。自社で飼育した羊の毛を原料の一部として工業的生産方法を取り入れた製品づくりをしている。2020年10月ジャパンテキスタイルコンテスト2020 グランプリ受賞。2023年・2024年・2025年Première Vision Paris maison d’exceptions出展。
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責任あるウールを使ったショールやマフラー。

2026年1月17日、群馬県高崎市のecolab cafeにて「KASAGI ぬくもりのまきば」が開催され、イベントを心待ちにしていたお客様が10時の開場前から列を作った。
会場にはショールやソックスといった定番品やカーペットが並び、KASAGIならではの手作り感のあるざっくりした味わいのテキスタイルが20種類近く展示された。

商品の受注販売も実施され、ショールやマフラーを注文する方もいた。また、オーダーメイドも可能で例えばマフラーであれば網目の模様や厚さ、長さなどを相談しながら作っていけるとあって、自分だけのアイテムを作りたいと笠木さんと理想の一着を思い描くお客様の表情は最高にワクワクしていた。

会場には都内から足を運んでくれた方や、群馬在住で笠木さんの友人の方も駆け付けた。「2018年までの約7年間、群馬で暮らしていてトンビコーヒーさんにも通っていました。味と香りのファンなのはもちろん、トレーサビリティというものを意識したのはトンビさんがきっかけです。」と話す。
KASAGIはグローバルスタンダードであるRWS(Responsible Wool Standard)を参考にしながら農場運営を行っている。RWSとは、羊と土地の管理を実践した農場において生産された羊毛原料が、その後の最終製品に至るまでの製造工程において、正しく、間違われなく使われ、管理されているかのトレーサビリティを証明する国際的な認証基準で、アニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮したものだ。

笠木さんは約30頭の羊一頭一頭が、どこで草を食べ、どこで眠り、どんな動きをして、どんな性格なのかまで把握している。そこで刈った羊毛をどこの工場で、どんな工程を経て製品になっているか明確に説明することができるため、特にヨーロッパではトレーサビリティとアニマルウェルフェアの観点からも高い評価を得ている。

羊たちの幸せが、独自の製品に。

会場では30分間のトークショーも開催された。プログラムのなかで「私たちKASAGIは“羊を飼育する、ウール製品を作る、ウール製品を届ける”、この3つを行う企業です。企業理念は“羊との契約を結びなおす”こと。羊の家畜化は約1万年前と言われていますが、最初は羊と人間は対等なパートナーのような関係だったはずです。それが次第に人間が羊を一方的に利用するようになってしまいました」と笠木さんは話す。

笠木さんが飼う約30頭の羊たちは一緒に働く仲間であり、一頭一頭に名前がついている。「品質の良いウールのために飼育環境を見直したのではなく、“羊の幸せな生き方”を考えた結果、高品質なウールをつくることができました」と、あくまで目的は羊たちの幸せにあると強調する。
愛おしそうに羊のことを話す笠木さんのこだわりは製品にも現れており、人気商品であるウールの靴下は最初に飼い始めたメス羊の名前から“ノンノンのウールソックス”と名付けられている。また羊が雪の日の草地に寝ていた跡を図案化したラグ“ひつじカーペット”には、笠木さんの羊たちへの暖かい眼差しが現れているようだ。

羊を飼い、毛を刈り、糸や生地にするところまで一貫して行うKASAGIのような企業は国内・海外でもめずらしい。世界最大級のファッション素材見本市“Première Vision Paris(プルミエール・ヴィジョン・パリ)”に出展した際には、その生産工程を知った来場者から「すぐにでも働きに行きたいくらいだ」とお褒めの言葉もあったという。また、2020年のジャパンテキスタイルコンテストでグランプリ受賞するなど国内外で高い評価を得ている。

「ご夫婦やカフェにふらっと来た方、赤ちゃん連れであやしながらトークショーに耳を傾けてくれた方もいて嬉しかったです。前日に放送されたラジオを聞いてご来場をいただいた方や、群馬に住んでいた時にお世話になった方々にも足をお運びいただき、本当に感謝しています」と当日を振り返る。休止中のトンビコーヒーのケーキセットが復活することもあり、KASAGIをこの日初めて知った人も多く訪れたようだ。
この日は開場から終わりの時間までずっとお客様の列が続き、笠木さんと話す人はみんな楽しそうな様子だった。後編では、笠木さんとのインタビューの内容を中心にお届けする。

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