2025.11.28

東京都内で最も多い90万人以上が住む世田谷区に量り売りのお店“赤塚商店”がある。店内には有機栽培のナッツや日本茶などの食材、繰り返し使えるふきんに環境に配慮した洗剤などが並ぶ。元スタイリストで店主の赤塚知里さんが2022年にお店を開き、約3年が経った。お店を通じて実現したいゼロウェイストな暮らしや、現在計画中の八百屋さんのことまで幅広く話を聞いた。
赤塚商店 店主 赤塚知里さん
静岡県沼津市出身。服飾学校を卒業後にスタイリストとなり、約27年に渡って続ける。2023年、東京世田谷区に量り売りお店“赤塚商店”をオープンする。
赤塚商店のInstagram

「量り売りが、“ちょっと変わった”ことじゃなく、“ふつうのこと”になってほしい」。こう話すのは東京都世田谷区で量り売りのお店“赤塚商店”を営む、赤塚知里さんだ。
赤塚商店では、農薬や化学肥料を使わずに育てたお茶やドライフルーツ、有機栽培のナッツなどの食品に加え、竹とバイオプラスチックでできた歯ブラシや環境負荷の少ない量り売り洗剤といった暮らしの道具も取り揃えている。
「誰が作っているのかも重要です。お客さんの信頼に応えるため、私も信頼できる人から仕入れています」という言葉通り、赤塚さん自身が食べて美味しいと思ったもの、使ってみて良いと思ったもの、生産背景に納得できたもの、それだけをお店に並べている。
一つひとつ選び抜いた商品のことをお客さまに伝え、吟味しながら購入するお店なので、赤塚商店は住宅街のそれほど人通りが多くない場所にある。「店内はコンパクトなので、このお店を目的にした人だけが来る立地が最適だと思いました。家が近所で土地勘があったことも大きかったですね」。
お店には近所に住む小さな子ども連れの方も多く“少し高価ではあるけれど安心なものを食べさせたい”というお客さんの思いを赤塚さんは感じている。「ドライフルーツは自然のものだから一個一個、形や大きさが違うんだよ、と子どもたちに話したり、おせんべいを食べたい分だけ買ったりしている様子を見るのが嬉しいです」。
マイ容器やマイバッグを使った量り売りや、ゴミを出さない暮らし方を子どもたちが大きくなったあとも、少しでも憶えていてくれればいいなと赤塚さんは願っている。
赤塚商店を始める前、赤塚さんは26年間にわたりスタイリストとして働いていた。忙しい中でも「家族の食事は必ず私が準備しています。食事は安全であることが第一で、それに責任を持ち続けてきました」と話す赤塚さん、家庭での食事が食に対する考え方の根本にある。食べることも大好きで、食への関心も高く、ずっと飲食店をやる夢を持ち続けていた。
だが、スタイリストを辞め、いざ自分がお店を始めようと具体的に考え出すと、食品廃棄の問題が頭をよぎった。
「環境問題を学び、洋服の廃棄や撮影現場でのお弁当の廃棄など、以前は当たり前だと見過ごしてしまっていたことに改めて気が付きました。環境負荷の少ない消費行動を実践しようとしていたのですが、お店を始めるとことは真逆にあたるのではないかとも考え、悩みました」。
そこで赤塚さんは、食を中心にした小売り業から始めようと、包装ごみを可能な限り出さない、量り売りのお店を開くことを決め動き出した。都内やハワイの量り売り店で商売の基本を学び、赤塚商店を2022年の12月にオープンする。
店舗の外観や内観、陳列されている商品の見せ方、SNSでの投稿は赤塚さんの美意識が反映され、とてもおしゃれだ。だが、「はやりの一過性のお店にはしたくないです。量り売り店で必要なものを、必要な量だけ買うことがお客さんの習慣になるためには、ずっとお店を続けることが必要です」と赤塚さんは続けることの重要性を強調する。
プラスチックは1860年代に生まれ、第二次世界大戦後に急速に普及した。「食品をプラスチックの袋で包装することが普通になっている点が、おかしいと思います。輸送、消費にかかる廃棄物はたくさんありますが、一番の課題は商品パッケージです」。
赤塚さんは包装容器自体が100%リサイクル材になれば廃棄物の削減に直結すると考え、始めの一年は店頭での包装容器の提供をゼロにしていた。だが、贈り物を探しに来たり、ふらりと立ち寄ったりしたお客さまに対応するために、今では再利用を推奨しつつプラスチックの袋も販売している。「諦めたのではなく、今出来ることを考えようと思いました。まず大事なのは続けることです」。
もうひとつ、赤塚さんが大事にしているのはローカルであることだ。「都内のイベントに出るのは少し控えています。イベントに出店すると新しい出会いがあるのは、とっても嬉しくて、その日は爆発的に売れるかもしれませんが、その分お店を閉めてしまうことになります。量り売りを日常にしたいのに、お店が閉まっている日が頻繁にあっては本末転倒なので。何よりも近所のお客さんを大事にしたいです」と、ご近所さんにとって、量り売りが日常になること、ゼロウェイストな行動を取り入れてもらうことが重要だ。

「約3年お店をやってきて、このまま量り売り店を続けているだけではゴミ問題の解決にはあまりにも遠い、ということを実感しました」。
ドライフルーツやナッツなど嗜好品だけでなく、より生活に欠かせない野菜などの消費行動を変える必要があると考えた赤塚さんは「新しく八百屋さんを開こうと計画中です。人参を半分、ジャガイモを1個からと少量から買えるようにして、大学生などの単身世帯でも、もっと野菜を食べてほしいです」と話す。
赤塚商店の近くには大学も多く、一人暮らしの学生も頻繁に来店するという。「よその子なんだけど、そういう子の健康も気になっちゃう」と笑う赤塚さん。年間を通じて同じものが並ぶスーパーの野菜ではなく、おいしく、その季節に必要な栄養が摂れる旬の野菜も食べさせてあげたいと続ける。
親元から離れて一人暮らしを始め、料理やゴミ出しなどを自分でやり始めた大学生がゼロウェイストな生活習慣を身に付ければ、一生の習慣にできる可能性もある。
先に触れたように赤塚商店は人通りの少ない住宅地にあるが、計画中の八百屋さんは駅前近くに置き、広くたくさんの人に届けていくつもりだ。
「野菜は毎日食べるものです。日々必要な人に買ってもらえなければ、ゼロウェイストではなくなります。私には野菜を作ることは出来ません。東京で出来ることを探し、実践していきたいと思います。ただ物を売るだけでなく、農家さんを含めた生産者さんとお客さまをつないでいきたいです」と話す。農家さんとお客さまをつなげるため、赤塚さんは現在、群馬や長野、山梨、山形の農家さん達の元を訪ね歩き、関係性をつくっている最中だ。どんな人が、どんな環境で作物を育ているか、農家さん直伝のおススメレシピなども紹介する予定だという。
「地球温暖化は進むばかりですが、お店でも生活でも毎日出来ることを少しでも楽しんでやっていきたいです。量り売りや八百屋さんなどの古いことを、知恵を使って新しい形にして、楽しみながら続けていきたいと思っています」。
赤塚商店にお客さまが通い続けているのは、ゴミを出さない暮らしをしなければならない、という義務感からではないのだろう。食品についての新しい知識や使い方を知ることが楽しい、ゴミを減らす暮らしが気持ちいいという動機が、お客さま一人ひとりの暮らしを変え、ゼロウェイストな暮らしを広げていく。