2025.4.28
瀧藤友美さん ※写真左)
Quilão(キラォン)主宰。グラノーラを中心に、グラム単位で地球にやさしくおいしい食べ物を販売する。東京都出身。高校卒業後、イタリアに料理修行のため留学。ブラジルにも10年程滞在し、身に付けた英語、イタリア語、ブラジルポルトガル語を駆使して通訳・翻訳・コーディネーターとして活動。コロナ禍を契機に2021年からQuilãoの活動を開始。秋間梅林でおばんざい定食処「雷と空風 義理人情食堂」も営業中。
・Quilão
・雷と空風 義理人情食堂
栗原史恵さん ※写真右)
Octobloom店主 栗原史恵さん
長野県出身。高校卒業後、アメリカの2年制大学へ入学。卒業後帰国し一般企業に勤め、結婚を機に群馬へ移住。主婦業をするなかでゴミの多さに疑問を抱き、地球環境問題を入り口に持続可能な社会形成に関心を持つ。totoya京都での研修を経て新潟県へ移住し、はかり売り店に勤務。2023年11月にOctobloom(オクトーブルーム)を開店。
・Octobloom
※栗原さんについては別の記事でも詳しく紹介しています。
Quilão(キラォン)とは、ブラジルポルトガル語で、食べ物を量り売りするお店の総称だ。ブラジルでは市場の八百屋さんや粉屋さん、量り売りの食堂に至るまでQuilãoと呼ぶ。その“Quilão”という屋号で、グラノーラや焼き菓子を販売する瀧藤友美さんと、群馬県前橋市で食品や雑貨の量り売りのお店“Octobloom”を営む栗原史恵さん。“量り売り”を共通点にもつ二人がざっくばらんにおしゃべりした。
瀧藤:イベントやマーケットでグラノーラを販売していると、“本業は何ですか?”って聞かれることがあります。グラノーラを売って生活していくなんて無理、と思い込んでいる人が結構います。
栗原:私も同じ様なことを聞かれます。お店を構えて店頭に立っているのにね。
瀧藤:すごいお金持ちになりたい訳じゃないなら、自分がやりたいことを納得できる形でやって食べていくのは、そんなに非現実的なことじゃない。
栗原:私もそうです。事業規模を大きくしようと思わなければ、充分できることだと思います。
“大人になったら週に5日、決まった場所で、皆と一緒に働く”という“思い込み”が、人生の選択肢を狭めてしまうことは誰しもに起こり得ることだ。
瀧藤:オーガニック野菜に関しても同じような思い込みがあって、“オーガニックはお金持ちの道楽”、という考え方の人がけっこういます。価格が高いのは事実ですが、化学肥料が普及する前は、ぜんぶ有機栽培だったのに。
栗原:日本では戦後、食料品を安く大量に作るために、農薬を使った野菜が広まっている面もあると思います。
瀧藤:千葉県いすみ市では公立の学校給食をオーガニックにする、という取り組みも始まっています※1。オーガニックがなかなか広まらないのは需要がないからで、行政が需要を作っている自治体もある。需要があれば、有機農業に取り組みたい農家さんも多いはずです。
瀧藤さんと栗原さんの会話を聞いていると、主体的に選ぶ、ということをすごく大切にしているのが分かる。それは日々の野菜の選び方一つでもそうだし、どう働くか、ということに対しても当てはまる。
※1 参照:オーガニック給食マップ(閲覧日:2025年4月17日)
市内すべての小中学校の給食で使用されるお米を100%有機栽培に転換し、野菜も有機のものを取り入れるという取り組みが行われている。
-瀧藤さんはQuilãoを始める前はブラジルやイタリアで暮らしていたと伺っていますが、もう少し詳しく知りたいです。
瀧藤:料理人になろうとイタリアに留学し、レストランで働きましたが、食材の廃棄が大量に出てしまうビジネスモデルが嫌になり料理人は諦めました。そのときのルームメイトがブラジル出身で、地元料理を振舞ってくれたり、自分でもカポエイラを始めたり、ブラジルへの興味が湧きました。
3年間の留学を経て帰国した瀧藤さんはイタリア社会や文化、料理への深い造詣を活かし、日本の若い料理人の海外研修や留学をサポートする企業に勤めた後、興味のあったブラジルに行くことにした。
瀧藤:先住民族の文化、16世紀に征服してきたポルトガルの文化、ポルトガルに連れてこられた奴隷の人たちによるアフリカ文化が混ざり合ったブラジル料理にすごく興味があって。ちなみにブラジルではグラノーラをアサイーにかけて食べるのですが、これが大好きでした。
その後、10年近くをブラジルで過ごし日本に帰国。4か国語を駆使して通訳・翻訳として働くようになる。ところが、新型コロナウイルス感染症の流行で、それらの仕事がすべてキャンセルになった。
瀧藤:子どもが通っていた幼稚園も休園になり、同じ園の親子で集まって近所の公園で遊ぶようになりました。自然とみんなでおやつを持ち寄って、分けて食べるようになって、私が手作りのグラノーラを持っていくと、子どもたちがおいしいおいしいとパクパク食べてくれて。別の子のお母さんが、これを買いたいと、言ってくれたことがきっかけで、ファーマーズマーケットに出店することにしました。
瀧藤:原材料は信頼できる生産者さんから仕入れたものだけを使っています。グルテンフリーでシュガーフリーだから、色々な人に食べてもらいたいです。ナッツとドライフルーツが入ったオーソドックスなものから、ワインやビールのおつまみになる塩味、季節限定の味もありますよ。
例えば、春のフレーバーはよもぎ、チアシード、黒コショウ、ピンクペッパーを加えたもの。パルミジャーノ・レッジャーノやハーブが入った塩味は、おやつとしてだけでなく、食事に添えてもおいしくて楽しい。普段のサラダにパラパラとかけるだけでも味や風味に変化がつき、調味料感覚でも使うことで料理の幅が広がりそうだ。スモークサーモンやローストビーフにも良く合う。
瀧藤:ブラジルで食べたようなグラノーラを東京で探しても、なかなか見つからなかったことも作り始めた理由の一つです。今は、東京都内と群馬県内を中心にイベント出店販売と小売店で扱ってもらったり、飲食店でレシピの一部に採用してもらっています。
瀧藤:Octobloomは味噌や昆布とか調味料も買えるし、キロ単位で買っても全然減らない小麦粉とかが100グラム単位と10グラム単位で買えるのはすごく良いと思う。
栗原:豆屋さんやお味噌屋さんはあるけど、バラバラに買うのは少し面倒ですよね。だから一緒にあるお店をつくりました。
瀧藤:カフェも併設されていて良いよね。
栗原:簡単な食事もできるようにしています。今はまだ難しいけど、ケーキもやってみたいです。
-お二人のところでお買いものをしていく人はどんな人が多ですか?
瀧藤:どこか私と同じ価値観を持っている人が多いです。買い物をするだけでなく、話をするために来てくれる人もいて、人生相談みたいになることもよくあります(笑)。
栗原:今ってお店がいっぱいあるし、モノはもっとたくさんあります。モノを選ぶとき、“人”がすごく大きい理由になっているのだと最近つくづく感じます。
瀧藤:“おいしい”ってすごく相対的なものです。この人が作っているから。この人が勧めているから。その人にこんな志があるから。色々な理由で、人は“おいしい”と感じている。だから、こんなに飲食店やお店があるんだな、って思うようになって。
栗原:例えばコーヒーを焙煎している人はたくさんいて、みんなおいしい。おいしい、というのはもう前提条件になっていると思います。そこから選ぶときに、どんな志でやっているか、どんな人柄なのか。私は好きな人から買いたいです。
瀧藤:便利が一番大事という価値観がずっと続いて、その代表がスーパーマーケットやコンビニエンスストアだと思います。買い物は投票って良く言いますけど、自分の好きなものや、応援したい人のものを選ぶのは大事です。
顔の見える、あの人から買うこと。毎日の買い物を意識的に選択していくこと。それが少しずつ世の中を動かし、変えていくことにつながっていくはずだ。
3月中旬にOctobloomの店内 でQuilãoのグラノーラを販売するPOP UPイベントが開催された。瀧藤さんと栗原さんの二人が店頭に立ち、ひっきりなしにお客さんが訪れ、グラノーラの新しい魅力に触れていた。
栗原:今日のランチプレートにある里芋のマッシュポテトの上に瀧藤さんの“梅おかかグラノーラ”をふりかけています。甘みのあるマッシュポテトに、酸味が加わって味が引き締まり、グラノーラの食感も面白いと好評でした。グラノーラには店頭で販売している“かつお粉末”を使ってもらっています。
瀧藤:今、グラノーラの加工場をお借りしている会社(結び葉合同会社)さんがある安中市には群馬三大梅林の一つ、秋間梅林があります。梅おかかグラノーラは、秋間産の梅干しから結び葉さんが作った梅干しチップと赤しそパウダーに、おかかと落花生を加えた和風な味が面白いです。
瀧藤:その秋間梅林でおばんざいと雑穀ごはんと豚汁の定食のお店を友人と二人で4月から始めたところです。お店の名前は「雷と空風 義理人情食堂」です。まずは水曜日のみの営業ですが、ぜひ遊びに来て欲しいです。
瀧藤:2024年の春から東京から倉渕に引っ越してきました。ご近所には、自家採種をして固定種の野菜を育てている農家さんや養蜂をやっている方もいます。商店やスーパーに行くと近隣で採れた野菜も並んでいますし、本当に豊かな所だと感じています。
瀧藤さんや栗原さんに加えて、県内の量り売りショップや農家さんが参加する“高崎ゼロウェイストマーケット”が2025年5月31日に開催される。包装無しの裸売りや、量り売りで商品を販売する。農家さんは廃棄されがちな規格外の野菜も販売予定だ。
県内で活動する志を持った生産者や売り手が集まるこのイベント。会話を楽しみつつ、私はこの人から買いたい、この人にまた会いたい、という関係性を一つでも作ることができれば、最高だ。