2024.12.18
根本剛さん
作家。群馬県桐生市在住。武蔵野美術大学卒業。テキスタイル会社を退職後、フリーランスのデザイナー、小学校のティーチングアシスタント、美術予備校の講師など経験した後、県内の専門学校でグラフィックデザインを20年近く教え続けている。2019年ごろから個人作家として活動を開始。美術館やギャラリーなどでの展示に加え、企業との商品開発やグラフィックデザインを行う。
画面の大部分が黄色に塗られチャーミングなキャラクターが大勢登場する賑やかな作風は一度目にすると忘れられない。作家の根本剛さんはデビューからわずか5年で絵や立体、音楽や映像など様々な表現を世に送り出してきた。2025年1月に作品展を控え、これまでの歩みと作品に込めた思いについて話を聞いた。
黄色を基調に人や動植物、架空のいきものたちがびっしりとカフェの壁に描かれた巨大な絵、制作者は群馬県桐生市を拠点に活動する作家の根本剛さんだ。
「私の作品の役割は人をハッピーにすることだと思っています。生きているだけで悲しいことや辛いことがみんな必ずあるはずだから」。
可愛らしい表情の登場人物たちがユーモラスな動きを見せる黄色い絵からは、カフェにいる人たちの気分が少しでも明るくなってほしい、という根本さんの願いが見て取れるようだ。
巨大な壁画は高崎市のecolab caféからの依頼で制作し、ほかにも駅ビルのキャンペーンビジュアル制作や風呂敷の柄のデザインなども手掛ける根本さん、個人の制作活動も精力的に行っている。
桐生市の美術館やギャラリーなどを中心に個展を開催し、絵画から立体、映像やインスタレーションなど様々な方法で、キイロイ世界を表現し続けている根本さんだが、作家として活動を始めたのはほんの5年程前からだ。現在に至るまでの経緯を聞いた。
桐生で生まれ育った根本さんは武蔵野美術大学を卒業後、テキスタイルデザインの会社に就職するも挫折。その後桐生市でフリーのデザイナー、美術予備校の講師などを経て、30歳ごろからデザイン専門学校での教職に就いた。
授業内容を一から考え、CG作成や動画編集なども独学で習得、部活の顧問も務めるなど教育に全力を注いだ。教え子の成長がうれしい反面「ものづくりをしていない自分が生徒たちにデザインを教えることに悔しさや寂しさをずっと感じていて。個人の作品はずっと描き溜めていたのですが、30代半ばにもなって下手と言われたら、という思いもよぎり発表する勇気がもてなかった」と当時を振り返る。
もんもんとする根本さんが、作家への一歩を踏み出すきっかけが、超撥水加工を得意とする桐生市の朝倉染布株式会社主催の風呂敷のデザインコンペだった。
樹々や果実、葉を鮮やかな色彩で描いた応募作品“イロイロの森”が2017年の優秀賞を受賞し、商品化された。「ようやく自分のテキスタイルデザインができて、挫折した気持ちの整理が10年近くかけてようやく付きました」。
その後2019年に、前橋市にあるセレクトショップ内のギャラリーの展示作家を探しているオーナーから相談を受けた根本さんは「いますよ、ぼくです」と名乗り出た。「オーナーさんの“面白いね”という一言で初めての個展が決まりました」。デザインコンペでの受賞があったから、作家としての一歩が踏み出せたのだと根本さんは話す。
「この初めての個展が現在の自分のスタイルが生まれた大きなきっかけでした。展示する空間でどう見えるかを意識して、使う色を絞りこんでいった結果、現在のキイロをメインにした色彩にたどり着きました」。以後、根本さんの作品は“あのキイロの絵ね”とたくさんに人の心に残るようになる。
初の個展を終えた根本さんは、その後もカフェのアートスペースやアートイベントなどへ精力的に出展し、ついにギャラリーでの個展のチャンスをつかんだ。
だが、2020年4月の開催を前に、新型コロナウイルス感染症が日本国内でも急拡大する。開催の是非について急遽、根本さん、ギャラリーのオーナー、地元紙の新聞記者が集まった。「オーナーさんはギャラリーで感染者を出したくない、記者さんはまたイベントが中止になって世の中が暗くなるのはイヤ、という思いがあって。最後には、私がジャッジをすることになりました」。
「絵を描いて終わりではなく作品と社会との関係も大事にしています。例えば、カフェの壁画でお客さんにどんな気持ちになってもらいたいか、その関係性を含めて一つの作品だと思っています。中止にして、さらに世の中が暗くなってしまったらと考えると、いい加減な判断はできないと思いました」。
そこで根本さんの出した答えが、当時まだ珍しかったWebを使ったオンラインビューイングでの展示だ。
「作品はギャラリーに飾ったまま、360度会場を見渡せる動画や写真をHPに掲載してInstagramやYoutubeのライブで毎日作品の解説をしました。すべてが初挑戦だったのですが、友人、知人、学校の生徒だけでなく東京の方からも広く反響がありました」。
この“ネモトキイロ展”をきっかけに高崎市のアートイベントから、今度は“映像”作家として声がかかった。
「(…やったことないけど)できます!と答え、出展することにしました。引き受けてから考えるっていう、ぼくの悪いクセです」と根本さんは笑う。
出展した映像は、リアルの展示の場で見てもらえなかった“ネモトキイロ展”に登場するキャラクターたちが映像のなかで、自由に動き回り世界を旅する、というものだ。
「絵だけが表現手段ではなくて、映像や音楽、立体など色々な方法で、社会とアートの関りを実践していきたいです」。根本さんはいつも新しい表現方法に貪欲で、挑戦をいとわない人だ。
子どものころに触れた絵本やみんなのうた(Eテレの音楽番組)の影響を強く受けているという。「私の作品に触れた人も、同じようにハッピーになってほしい。そのために新しい技術や知識を学ぶことはワクワクします」と目を輝かせる根本さんの表現は、今も変化を続けている。
桐生市の大川美術館での新しい企画も進行中で、子どもたちがアートに親しんでもらえるよう、根本さんの作中人物であるキイロイさんが美術館内を案内するというものだ。
「自分の作品がピカソの隣に並ぶかもしれない、なんて想像しただけでもヤバイです」と嬉しそうに話すこの企画、2025年には形になる予定だ。
最終的な目標は絵本作家といい「2025年の夏前くらいに初めての絵本を出す計画です。今49歳なのですが、60歳、70歳になったときに絵を描き続けて、その先に絵本があったらいいな」と根本さんは思いを巡らせる。
さらに新年1月14日(火)から25日(土)までecolab caféで展覧会“Hello!Hello!!Yellow!!! nemographics(by nemoto Tsuyoshi)”を開催する。「新しい絵や立体も展示するつもりです。ここの壁画は私の作品のなかで最もサイズの大きな代表作の一つです。実は全部手書きなので壁画も改めて見てほしいです」。
根本さんのキイロイ作品たちがジャックした空間をぜひ体感してみてほしい。2025年のアート始めは根本剛の作品展で決まりだ。
会場
エコラボカフェ
住所
群馬県高崎市上並榎町382-1群成舎ANNEXbldg1階
会期
2025年1月14日(火)~1月25日(土)
※日・月曜日は定休日となります。※1月18日(土)は臨時休業となります。