2024.10.30
カネコ種苗株式会社 システム開発部 開発グループ 課長
西澤光義さん
カネコ種苗株式会社 システム開発部に所属。農業施設・養液プラントの開発・設計・営業を行っている。現在、農業で使用される化石燃料の代替燃料の実証プロジェクトに力を注ぐ。
「御社には油田があります」。このフレーズを突破口に油のリサイクル企業や、自動車の販売・修理企業とともに資源循環型農業の実現を進めるカネコ種苗株式会社の西澤光義さん。石油の約99.7%を輸入に頼る日本で“油田”とは一体何を指すのか。明治28年創業の種苗会社であるカネコ種苗が取り組む最新の事例についての講演は驚きの連続。その一部を紹介する。
2025年に創業130周年を迎えるカネコ種苗は野菜の新種開発、種苗販売を主とする老舗企業だ。農薬・肥料の販売、栽培設備や温室の設計開発に加え、近年では資源循環型農業の推進にも力を注いでいる。
「農家さんが今、悩んでいることの一つが、燃料費の高騰です。2023年の原油価格は2005年に比べて2倍近くになりました」。カネコ種苗株式会社システム開発部の西澤光義さんはこう話す。ビニールハウスの暖房などに使用される重油や灯油は化石燃料であり、化石燃料は世界の温室効果ガス排出量の約75%を占める。日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指しており、農業生産用燃料のアップデートは農業を支える同社にとって喫緊の課題だ。
「我々も資源循環型農業への対応に大きく舵を切る必要があります。今日は、脱化石燃料化を進めるために注目した、次の3つについてお話しします。一つ目が“使用済み食用油”、二つ目が“交換済みエンジンオイル”、そして三つ目が“廃プラスチック”です」。
栃木県佐野市に本社を置く株式会社吉川油脂は、食用油専門のリサイクル企業だ。同社は食品工場、コンビニエンスストア、飲食店から排出される使用済み食用油(廃食油)を回収。精製した再生油を飼料用や工業用への油脂や、代替燃料に加工して販売している。
同社は回収した廃食油をろ過、精製した再生油を農業用燃料として活用した農業事業への新規参入を決意。農地所有適格法人の株式会社Green Sustainable Agricultureを立ち上げ、ミニトマトを生産している。
「Green Sustainable Agricultureはミニトマト“とまとまる”をハウス栽培しています。苗とハウスなど栽培設備をカネコ種苗が販売しました。生産したトマトは、廃食油の回収元でもある大手コンビニエンスストアチェーンにほぼすべてを販売しています。サステイナブルな取り組みを高く評価頂いたと聞いています」。
群馬県前橋市のGNホールディングスは日産、ルノー、アウディ車の販売・メンテナンスを担うディーラー各社をまとめるホールディングス会社だ。同社はグループ内、35店舗での自動車修理などで発生する廃エンジンオイル44万ℓを回収、ろ過、精製し工業用の燃料として販売していた。
「ここに私が“御社には油田があります”と農業事業への参画をご提案しました。GNホールディングスさんは農地所有適格法人 株式会社mino-lio(ミノリオ)を設立。カネコ種苗は、“やよいひめ”や“よつぼし”といったいちごの苗と栽培用プラント、農業用ハウスを提供しています。精製したエンジンオイルはビニールハウス内を暖める燃料として活用しています」。
生産したいちごはグループ全体で約900名の従業員に社内販売し、福利厚生の一助となるほか、車を契約したときのお礼として車の購入者へのプレゼントとしても喜ばれている。また、ふるさと納税などを通じて一般販売も行うなど徐々にファンを増やしている。「GNホールディングスさんのように廃エンジンオイルを出す企業として、バス会社さんやタクシー会社さんにも農業参入の可能性があると思います」と、西澤さんは資源循環型農業の可能性を探り続けている。
ケース1とケース2は共に使用済みのオイルをろ過、精製し活用する事例だった。次に紹介するのは、廃棄されるプラスチックを高温で分解、油に戻して再利用するケミカルリサイクルの事例だ。「先ほどのmino-lioさんとカネコ種苗は、福島県の六洋電気株式会社、高崎市の赤尾商事株式会社と協力し、ペットボトルキャップなど廃プラスチックを高温で分解し、重油を生成。いちご栽培における燃料として活用する取り組みを、この9月からスタートしています」。
ケース2で見たように、これまでも使用済みエンジンオイルはビニールハウス内の暖房燃料として活用していたが、光合成促進装置(油の燃焼により二酸化炭素を発生させ、ビニールハウス内に送り込む装置)と培地加温システムについては一般の灯油を使用していた。この灯油を廃プラスチック由来の重油に切り替え、脱炭素化がさらに進んだ形だ。
本ケースでは、六洋電気が廃プラスチックを油化・蒸留し灯油質を生成。生成した灯油質を赤尾商事が六洋電気から農園に運搬する、という協力体制が敷かれている。「赤尾商事さんはガスや産業用燃料、潤滑油を販売する企業さんです。再生した重油を安全に運ぶためには、専門的な設備と技術が欠かせません」。
ここまで見てきた通り、廃油や廃プラスチックを再利用する際には、どのように廃油と廃プラスチックを回収するか、精製した油をどのように提供するか、がポイントとなる。これを西澤さんはインフラと呼ぶ。
国内での食用油の消費量は年間2482万トン、このうち約2000万トンが事業系、企業が使っており、インフラ(回収ルート)はほぼ整備済だ。「一方、家庭での消費量は年間420万トンほどで、廃棄が年間10万トン発生しています。こちらは回収するルートが整っておらず、リサイクルが進んでいません。その第一歩として、リターナブルボトルを開発・推進しています」。
企業の従業員が家庭の使用済み油をリターナブルボトルに溜め、一定量が溜まったタイミングで吉川油脂に持ちこみ再生する。企業が廃食油の回収プラットフォームとなるモデルで、この10月からエコラボカフェでも同様の取り組みを実施している。
「廃油や廃プラスチックを回収し、再生油を供給する拠点として可能性を特に感じているのは、ガソリンスタンドさんです。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて新しいビジネスモデルを作りたい、という点は我々と一致しているはずです。先ほどのリターナブルボトルやペットボトルキャップを回収し、精製した油を供給する拠点になるインフラをガソリンスタンドは備えていると思います」。
地球温暖化、脱炭素化が叫ばれるなか、持続可能な農業ができない理由を並べているだけでは問題は解決できないと話す西澤さん。「一社で難しいなら、地域みんなで問題に取り組んでいく。そうすれば新しい景色が必ず見えるはずです」。多くの企業と連携し、資源循環型農業を進めるカネコ種苗に期待がかかる。