2024.8.9
“安全で本当に美味しいものだけを食卓に”をモットーに全国から選りすぐりの商品を揃えるスーパーまるおか。同店の主催で、糀調味料を開発・販売する、予祝(よしゅく)の井川みゆきさんのワークショップが開催された。糀調味料の使い方や作り方のレクチャーはもちろん、スペシャルランチも付いた濃厚な3時間半の様子を紹介する。
井川みゆきさん/予祝(よしゅく) 女将
高崎の山名八幡宮の元社務所でテイクアウト店、予祝を経営。店舗では、テイクアウトの甘味、ドリンクや食事(ケータリングなど)、自然農法いせひかりを使ったオリジナル糀での調味料販売、また、糀を使ったギルトフリースイーツを販売。
糀調味料で仕事に育児と忙しい女性の簡単にしかも美味しく、栄養価が高くなる食事作りをサポートし広めていきたいと活動している。
「糀を使ったレシピ、と聞くと料理が上手な人が使う、難しい調味料とイメージする方がたくさんいらっしゃいますが、塩糀なら塩の代わり、醤油糀なら醤油の代わり、くらい気軽に使ってほしいです」。糀調味料を開発・販売する井川みゆきさんの言葉に、参加者は少しほっとしたような表情を見せる。
「糀を使うと簡単に食事を美味しくできます。特にお魚とお肉で効果を実感しますね。調理前のお肉に30分間、混ぜ込んで漬けむと糀菌が働いて、これだけで簡単にお店みたいな、非常に奥行きのある味になります」。家事、育児をしながら予祝を経営する井川さん、糀調味料で一番助かっているのは私ですと笑う。
「子どもが食事を食べてくれない、と悩む方も多いと思います。うちの子は16歳の男子で、以前に比べると大分会話が減っていました。でも料理に使う塩を塩糀に変えて2、3日経ったころでしょうか。“ママ、いつもごはんを作ってくれてありがとう、これ、幸せな味がするね”という言葉をもらったこともありました」。大人以上に味に敏感な子どもの舌にも糀は好評のようだ。
井川さんの作る糀調味料は自然農法で栽培された高崎産のいせひかりと、県内の糀屋さんがつくるオリジナルの糀をもとにつくられている。「いせひかりは伊勢神宮の神様に供える食材をつくっている、三重県伊勢市楠部町(くすべちょう)の神田(しんでん)から生まれた品種です。伊勢神宮から全国の神社に分けられ、そこから各地の農家さんに伝わった貴重なお米で、それを自然栽培で育てている方から分けてもらっています」。
井川さんの糀調味料は塩糀、醤油糀、にんにく糀、糀コチュジャンの4種類がある。塩はチキンソテーや塩からあげ、醤油は野菜スティックや豆腐などにそのままかけても美味しい。にんにくは、パスタやガーリックトースト、唐揚げに。糀コチュジャンは、鍋や簡単キムチ、お味噌汁に少し入れるのもおススメだ。糀調味料は料理の幅を広げ、しかも簡単に美味しくなる、忙しい人の味方だ。
ネギ糀の材料は長ネギ、生姜、塩、水、そして米糀だ。25人の参加者が座るテーブルに、材料と大き目のボウル、スプーン、ガラスの保存容器が配られる。
「まず、糀とお塩をすり合わせていきます。人の手には常在菌というものがいます。この常在菌と糀菌、お塩を仲良くさせるため、素手でよくすり合わせることが大切です。このときに私は声をかけています。“美味しくなってね”、“今日もよろしくね”と声をかけるとおいしい糀ちゃんができるはずです」。
塩とすり合わせた糀を消毒した保存容器に入れ、糀が全部水に浸かるほどの水を追加し、刻んだ長ネギも入れる。さらに消毒したスプーンで保存容器のなかを混ぜていく。「混ぜる方向ですが、左回しに混ぜると糀ちゃんはまろやかになると言われています。だから今回は左回りに混ぜていきましょう。これで準備は完成です。気が抜けてしまうほど簡単です」。
ここから室内の直射日光を避けた場所で、常温で発酵させていく。期間は、夏は3日、春や秋は5日、冬は7日から10日ほどだが、置いておく環境によるため、様子をよく見ておいてほしい。糀をつぶしたきお米の芯が残っていない柔らかい状態が、発酵が終わり完成した印だ。
「発酵中は毎日1回、底から消毒したスプーンでかき混ぜてください。同じ時間帯である必要はないです。その時も声をかけてあげると良いですね。混ぜ終わったあと、水から糀ちゃんが出ないようにすることも大切です。保存容器が完全に密封されないよう、蓋と容器の間を少しだけ空けておいてください」。
発酵が終わったら冷蔵庫で保存する。発酵が止まり、おおよそ2か月くらいは日持ちする。使いきれない場合は製氷機などに入れブロック状に冷凍して、食品保存用の袋などにいれて保存しておくと使いたい分だけ使えるので、なお便利だ。
ワークショップ後には、会場となったエコラボカフェのシェフでありナチュラルフードコーディネーターによるスペシャルランチが振舞われた。糀調味料を使ったポッサムやビビンバ丼、大根のコチュジャンキムチや醤油糀のせバニラアイスなど、糀の万能性が現れたコースで参加者には特別にレシピも公開された。
参加者へのアンケートには、早くも続編の糀講座を望む声が多くあった。3時間半の長丁場ながら非常に満足度の高いワークショップだった。
ワークショップ終了後に、井川さんに糀調味料開発の経緯を聞いた。2019年10月に山名八幡宮にオープンした予祝は、当初はお稲荷さんやおにぎりを中心にしたお店だったそうだ。「お客さんのリクエストも受けていて、その一つが自然農法いせひかりの玄米おはぎでした。これが人気で甘味中心のお店になりました」。さらにメニューに加わった花団子が“美しすぎる花団子”としてSNSで拡散されると、予祝は一躍人気店となった。
その後、井川さんは予祝を切り盛りし、子育てに奮闘する日々で“食事”に対する想いを募らせていく。幼少期、井川さんはお父さんと二人暮らしだった。お父さんは寿司職人で帰りが遅く、夕ご飯は一人か、住んでいた賃貸住宅の大家さんの家で食事をとり、気を遣う場面も多かったそうだ。
「食事を、家族みんなが揃って会話する楽しい場にしたい、という気持ちがとても強いです。でも、私がお客様みんなの自宅に行って料理をする訳にはいけませんから、どうしようかな、と考えたときに閃いたのが調味料でした。私の代わりにお客様が家で美味しい料理を作って、食卓に笑顔が生まれるのが一番じゃないかって」。
また、井川さんは数年前から自然農法に興味を持ち、スーパーまるおかのセミナーにも足を運び、自然農法の米農家さんのお米づくりも1シーズン手伝ったこともある。調味料を作るなら“絶対に自然農法のお米を使った糀がいい”と直感し、先述の米農家さん、県内の糀屋さんと縁がつながり、自然農法で育てた、いせひかりを使った糀調味料の開発に成功した。
「本当は私が糀づくりからできればいいのですが、今は難しいです。今の私ができることは、農家さん、糀屋さん、もやし屋さん※1、みなさんの力を借りて、お客さんに自然農法を広めていくことだと思っています」。食事のすべてを自然農法のものに切り替えることは非常に難しいが、少しずつ取り入れることはできるはず。様々な料理に使えて、簡単に美味しくなる糀調味料は、自然農法に興味をもってもらう入り口としてピッタリだ。
「慣行農法をこの先ずっと続けていくことは難しいです。土にも人体にも化学物質がたまり、いつかは立ち行かなくなるはずです。糀から自然農法に触れ意識が少しでも変われば、減農薬の野菜を買ったり、添加物を避けたり、少しずつ行動が変わっていくはずです」。
井川さんの糀調味料には、自然と人の体を大切にしたいという想い、食卓を笑顔にしたいという想いが込められている。
※1:日本酒や味噌、糀メーカーの要望に応じた糀菌を培養し、提供する専門業者さんを指す。