2024.7.10

ダンボール一箱で体感する、資源の循環

食や環境に興味があるなら一度は聞いたことがある「コンポスト」。
やってみたいけど何だか難しそう、と思っていた方もいるだろう。
今回は食育アドバイザーの八木容代さんに、ダンボールや新聞紙など家庭にあるものを使ったコンポストの始め方を教えてもらった。

講師プロフィール

八木容代さん/食育アドバイザー
子どもの身体の症状からオーガニック生活を始め、有機家庭菜園をスタートし7年目。家庭での循環を作り、“生きる力”をつけるライフスタイルを提唱。3人の子育て、7年間の発達障害児童・不登校支援をしてきた経験で、食育を伝えたいと6年間様々な学びを取得している。
蜂蜜療法協会所属/ドイツ法人オーガニックビジネス研究所CEOにてオーガニックの学びを取得/農林大有機農業科受講中。

土のなかにいる、働きものの微生物たち

「そもそもコンポストという言葉は、英語で堆肥、土壌という意味です。土壌には膨大な数のカビや細菌、微生物が住んでいます。家庭の生ごみを堆肥にするコンポストは、有機栄養微生物の力を借りています」。

食育アドバイザーでもある八木容代さんは手を動かす前に、まず土と微生物についての話から始める。

「私たちの暮らしでも身近な微生物の力を借りている機会がたくさんあります。食べものだと、お醤油、お味噌。お酒は酵母の力で大豆やお米を発酵させてつくるものですね。酵母も有機栄養微生物の一種です」身近な食品の例に、参加者もぐっと自分事になっている様子がわかる。

「土のなかの微生物が有機物を食べ、チッソやリン酸、カリウムなどに分解します。これらの無機物を栄養として植物が育ち、それをバッダなどの虫が食べ、カエル、ヘビ、タカと、食べる・食べられるという関係が繋がっていきます」。生態ピラミッドの図を見せつつ、食物連鎖について八木さんは話す。

落ち葉や動物の糞尿が畑に肥料として撒かれると、それを食べる微生物が土壌に多く生息できる。微生物が肥料を無機物に変え、その無機物を根から吸収した植物が栄養満点の野菜となって、食卓に上ることになる。

だが化学肥料や化学農薬を多く用いると、微生物のエサ(落ち葉や動物の糞尿、生ゴミなどの有機物)がなくなり、微生物が生きていけなくなる。微生物のいない土壌では植物病原菌や病害虫が繁殖しやすくなり、それがまた農薬の使用を招くという悪循環に陥ってしまう。

慣行農法は、生態ピラミッドから微生物の働きが失われ、資源が循環しなくなってしまうと八木さんは指摘する。

子どもも大人もダンボールコンポストで循環を実感

ここからは、いよいよコンポストを作っていく。この日はお母さんと一緒にやってきた、小学生6年生と3年生の姉妹に手伝ってもらった。

用意したダンボールは50㎝×40㎝ほど。特に大きさに決まりはなく、使いたいコンポストの量によって大きさは決めて良いそうだ。

「底をガムテープで留めたダンボールの中に1日分の新聞紙を敷き、土と腐葉土を8分目くらいまで入れ、竹炭を混ぜ込みます」と八木さん。ジョウロで水を少しずつ加え、土をしっかり握ると軽く固まるくらいが目安だ。

そこにゴボウやニンジンの皮、卵の殻などを入れる。その上から米ぬか、またはEM菌(酵母や乳酸菌などをブレンドしたもの)を入れ、よく混ぜる。

「微生物って見える?」、「卵の殻割ってみたい!」という声もあがり、和やかな雰囲気でワークショップは進んでいく。

土の上に新聞を載せ、ダンボールの蓋を閉め、養生テープで留める。養生テープは虫が湧かないようにするためだ。

段ボールの底が湿らないよう、網目状の台などの上に置き空気が通るようにする。置き場所は玄関やベランダ、軒下など雨が当たらない場所を選ぼう。

今回の段ボールの大きさなら約1週間分の家庭の生ごみを入れることができる。生ごみを入れるのをやめてから、1か月半ほどで分解され土になる。

「夏休みの自由研究にも良いと思います。生ごみの種類と入れた日付を記録して、何日で土になったか観察してみましょう。発酵が進むと土の温度が上がって、季節によっては60℃近くになることもあって微生物の力を実感できます」。

八木さんがダンボールコンポストで作った堆肥で育てたラディッシュも持ち込まれ「段ボールコンポストは、“食べる”、“コンポストする”、“作物を育てる”、“食べる”、という循環を体感するのにピッタリだと思います」。

最後に参加者からの質問にじっくり答え、「ウチならどうやってやろう?」という疑問も解消し、充実したワークショップだったようだ。

子どもたちのアレルギー、不登校をきっかけに食の大切さを伝える

現在は食育アドバイザーとして、コンポスト講座や、オーガニック家庭菜園講座などを行う八木さん。自宅に隣接する計500坪の土地を借り有機農業にも取り組んでいる。

「20代半ばから10年ほどフリーのヘアメイクをしていて、そのころから食事と美容の関係は気になっていました。子どもが生まれてからは、肌に付けるものは石油成分を避けるようになっていましたね」。

お子さんのアレルギーを機に、さらに食への興味は増し「子どもが通った保育園が減農薬野菜を使い、調味料にもこだわる園でした」。そこで八木さんは食べものも徐々にオーガニックを取り入れるようになる。

「子どもたちの体が丈夫になったことに夫も気が付いて。今では夫もオーガニックにハマっています。全部を一気に変えるのは難しいので、無理のない範囲から、ゆっくり取り組むのが良いと思います」。

さらに八木さんは子どもたちとの時間を確保するためヘアメイクの仕事を減らし、不登校の子や障害をもった子どもたちが通う放課後デイサービスで働くようになる。

「そこに通っていた不登校の子の保護者が精神的に不安定で、その子の夕ご飯はスナック菓子でした。その子におにぎりや唐揚げを準備するようになり、施設の中で一緒に食事を作る学びを取り入れました。元気になってきたその子をみて、食べるものを選ぶ大切さを感じました」。

食と子どもの健康との関連性に確信を得た八木さん、ドイツの大学院でオーガニックを研究していた方からオーガニックを学んだ。現在は群馬県立農林大学校の社会人コースで有機農業を専攻している。今は自宅の隣の土地を、近所の方の厚意で借りているが、ゆくゆくはその土地を買い、兼業有機農家を目指す。さらに細やかな食育指導ができるよう、毛髪ミネラルアドバイザー※1の資格を学んでいる最中だ。

令和5年の個人経営体の基幹的農業従事者(仕事が主で、主に自営農業に従事した世帯員)は、116万3500人で、前年から5.1%減少した。※2

多くの人が日常的に土に触れる機会が減る今、ダンボールコンポストは資源の循環を実感できる大切なきっかけになるだろう。

※1 体に溜まった重金属(水銀、アルミニウム、カドミウム、ヒ素、鉛等)や、不足しているナトリウム、カリウム、マグネシウムなどの量が数値として分かる毛髪ミネラル検査をもとに、何が溜まりすぎて体に影響を与えているか、何の栄養素が不足していて何を補うと良いかをアドバイスを行うために役立つ資格。

※2 出典)「農業構造動態調査/確報令和5年農業構造動態調査結果」,「政府統計の総合窓口(e-Stat)」(参照2024-7-1)

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