2022.8.19

障害のある方の自立の道を農業で切り開く

障害福祉サービス事業所 菜の花 管理者・サービス管理責任者 小淵久徳さん

前橋市の障害福祉サービス事業所“菜の花”、ここの利用者は各人の適性の応じた農業を実践。同事業所は、障害者の自立に向け高収益な農業の模索を続けている。その一環で農薬や肥料を一切使わない自然農法にも取り組む。菜の花の管理者である小淵久徳さんに話を聞いた。

障害をもっていても稼げる農業はできる

菜の花は就労継続支援B型と呼ばれる施設だ。ここには障害や難病があり一般的な就労が難しい方が通う。現在23人の方が施設を利用し、お米や玉ねぎ、枝豆などを栽培、販売している。
「障害の有無によらず、人にはそれぞれ個性があります。それを見つけるためには、チャレンジが欠かせません」菜の花の管理者である小淵久徳さんは、こう話す。

「ここに通われている方は、得意・不得意の度合いが、いわゆる健常の方より強いです。ただその人に向いている仕事だと、ものすごい集中力を発揮することがあります」。
家族経営の農家さんに比べると菜の花には人手はある。だが「機械も積極的に取り入れて、利用者さんの力を一番引き出せる方法を常に模索しています」と小淵さんは続ける。
その一例が枝豆の選別作業だ。以前は茎ごとに、A品、B品、C品と一人が茎に生った豆を3種類に選別していた。
現在は枝豆の茎から莢(さや)のみを選別する脱莢機(だっきょうき)を導入。機械の特性と、利用者の個性から独自の作業を編み出している。

具体的な作業はこうだ。選別されたさやが、ベルトコンベアで各人の前に運ばれていく。そこに、豆が一粒欠けているというB品を取る人、さやに少し傷や汚れがあるというB品を取る人、出荷できないC品を取る人と、それぞれ専門の担当を決めて利用者を3名ほど配置。各人が選別をしたあとにはキレイなA品のみが集まる。
その結果、出荷量と品質が劇的に向上。近隣の農協の出荷場所では、菜の花の枝豆が全体の5分の1ほどを占めるようになった。選別がちゃんとできていないと農協から言われることはほとんどない。選別の精度は間違いなく高まったという。
このように各工程の機械化と、やり方の最適化によって菜の花では高収益な農業を実現している。「百姓というように、農業には百の仕事があると言われています。一人ひとりの得意分野を探して、仕組みを工夫していけば、いくらでもやりようがあります」と小淵さんは胸を張る。

自然農法にも取り組み高工賃を実現

菜の花では一般的な慣行栽培に加え、2016年から自然農法にも取り組んでいる。化学肥料に除草剤、はては有機肥料も使用しないため管理が非常に難しい。その反面、農作物は通常の倍近い金額で取引されるという。
就労継続支援B型施設での全国平均の工賃額は15,776円(月額/令和2年度)だが、菜の花では54,262円(月額/令3年度)。先の枝豆の例にあるような高効率な農業や自然農法による成果だ。
障害の有無にかかわらず、人が自立するためにはお金をきっちり稼ぐことも重要だ。ただ就労継続支援B型の事業所は利用者と雇用契約を結んでいない。雇用契約を結んで働く就労継続支援A型や、法律に基づく最低賃金と比べると金額が低いことが多い。菜の花の現在について小淵さんは次のように話す。
「B型の施設は法制度のなかで、不安定で中ぶらりんな状況なのも事実です。菜の花で高い工賃の方は7~8万円台。障害年金2級の約6万円を足しても、月に13~14万円ほどです。さらに高い工賃を目指しています」

適切に人に頼ることができればそれは自立

高い工賃と並び、生活能力の向上や人との関り方を身に着けるなど、利用者が社会的に自立できるような支援も菜の花の大きな役割だ。
私の持論ですがと、小淵さんは断りをいれた上でこう話す「自立とは自分で何でもできることではないと思います。たとえば家の水道が壊れたとき、水道屋さんに電話して修理してもらえるなら、自分の手を動かしてはいませんが、これは自立していると思います」
困ったときに“困っている”ことを周りに伝えることができ、問題を解決できたなら、それは自立だということだ。

障害をもつ方の親(保護者)が一番気がかりなのは、自分たちがいなくなったあと、子どもが生活していけるか、という点だ。親が出来ることは、子どもが出来ることを一つひとつ増やしていくしかない。
何ができて、何ができないか、助けを借りればできるのか。それは新しいことをやらない限りわからない、だからチャレンジが必要だというのが小淵さんの考えだ。
「様々なツールや周りのサポートを受け、目標が達成できるなら、それは健常の人とほぼ変わらない、自立した生活と呼んでいいと思います。ここでも命に係わるような失敗はさせませんが、それ以外なら、どんどん挑戦を勧めています。作業で玉ねぎを一つ無駄にしても、カリカリしません。つぎの方法を考えればいいんです」

菜の花では農産物の栽培に加えて、その販売も行う。生産だけでなく、販売することで利用者と外の世界とつながりが生まれている「外に開いていると様々な意見を頂戴することもあります。でも何をやっているのかが伝われば、応援してくれる人も増えていくはずです」。
近隣の保育園や小学校での田植え体験への協力や、一反パートナーという企業が福祉施設の利用者と一緒に農作業を体験できる企画など、菜の花の活動は広く、着実にその根を広げている。
エコラボカフェでは、菜の花の自然栽培で作られたお米を使用している。ぜひ一度試してみてほしい。

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