2022.3.14

「生活の質感を大切に。人生を豊かに美しく!」ビューエル芳子

ヒュッゲ(Hygge)って何?~心地よい暮らしの実践法~

世界中から家具や雑貨などを扱う輸入商社を設立し、北欧文化に精通する芳子ビューエルさん。デンマークで生まれた考え方「ヒュッゲ(Hygge)」の話題を中心に、人生や暮らしを豊かにする方法、北欧と日本との違いについて話を聞きました。聞き手は株式会社ラジオ高崎、アナウンサーの田野内明美さんです。

幸福度の高いデンマークってどんな国?

田野内:今日はよろしくお願いします。早速ですが、デンマークとはどんな国なのでしょう?

ビューエル:デンマークは世界幸福度ランキングで156カ国中2位の国です。それに対して日本は何位かご存知ですか?

田野内:何位でしたっけ…40位…、54位…?

ビューエル: 正解は56位です。WHOの自殺率ワーストランキングで日本は90カ国中6位です。特に女性の自殺率はワースト3になります。

田野内:それは衝撃的な数字ですね。世界幸福度ランキングとはどんな指標で決められるのでしょうか?

ビューエル:指標は6つあります。1人当たりの国内総生産、社会保障制度などの社会的支援健康寿命、人生の自由度、他者への寛容さ、国への信頼度です。日本は国内総生産を除く5つの指標でスコアを大きく落としています。

田野内:北欧と日本の間にこんなに大きな差がある原因は何なのでしょうか?

ビューエル:北欧では、税金が高い代わりに社会福祉制度が非常に充実しています。日本では仕事を辞めたいと思っても、生活のことを考えるとすぐに辞めることはできませんよね。

田野内:はい。不安でそんなことできないです。

ビューエル:デンマークでは、急に仕事を辞めても、生活に困らないくらいのお金が国から支給されます。教育も無料なので、学校に入って学びなおす方も多いです。親の介護や子どもの教育も全て無料なので、お金の心配がとても少ない。

田野内:日本のように親の介護や、大学に進学する子どものお金まで考えなくていいんですね。

ビューエル:すごくストレスが少ないです。また個人の意志が尊重される北欧では、人生の自由度が高い点も日本と大きく違います。老後の暮らし方についても同じです。

田野内:日本とはどう違うんですか?

ビューエル:デンマークでは、老いの段階にあわせて様々な援助が受けられます。たとえば、自分一人で買い物に行くことが難しいと感じる人には、週一回買い物代行のヘルパーが来ます。一人でシャワーを浴びるのが難しい人には、手伝ってくれるヘルパーが週に三回ほど来てくれます。

田野内:そうなんですね。

ビューエル:日本人の老人ホームの滞在年数は8年ほどと言われていますが、デンマークでは約7カ月です。こうした援助が充実しているから、各々の生き方を尊重し、自分らしい生活を最期まで送ることができます。

ヒュッゲ(Hygge)ってどんな言葉?

田野内:今日の大きなテーマである「ヒュッゲ」とは、どんな意味の言葉なのでしょうか?

ビューエル:ヒュッゲというのは、心地よい時間とか、心地よい過ごし方とか、心地よい空間といった、すべての意味での心地よさやを総称する言葉です。

田野内:日本でいう「ゆったり」のような?

ビューエル:大きく言うとそうですね。

田野内:「ヒュッゲ」がデンマークで生まれた背景には何があるのでしょうか?

ビューエル:行ってみるとわかりますですが、デンマークの冬は夜が長くて、寒くて、孤独を感じやすい環境です。それと日本人みたいに結婚を急がず同棲する人が多い。ということは、別れることも多い。だから一人でいることに慣れてはいるけど、一人だとやっぱりさみしい。そういった背景があると思います。

田野内:そうなんですね。

ビューエル:だから、デンマーク人は、ちょっとさみしいなと思ったら、「ねぇヒュッゲしない?」というふうに口に出して、さみしさをアピールしますね。

田野内:じゃあ孤独から生まれた言葉がヒュッゲなんですね。「ヒュッゲしない?」と言われたときに、何をするのでしょうか?

ビューエル:一緒にご飯を作って、一緒に食べて、一緒に片付ける、これもヒュッゲです。何か同じことをするということが基本ですね。

田野内:食事だったり、お茶だったりするんですね。

ビューエル:あとヒュッゲはお金をかけることではなくて、手間をかけます。それが大事。

野内:お金ではなく、手間?

ビューエル:はい。日本ではホストが準備して、お客様はすべてやってもらうのが“おもてなし”ですよね。でも、ヒュッゲは“一緒にやって、一緒に感じる”ことが大事です。

田野内:“一緒に”ということが重要なんですね。

ビューエル:そうです。あとは形式や恰好にとらわれないで、その瞬間を楽しむという意味合いもあります。

田野内:具体的に何か経験されたことはありますか?

ビューエル:びっくりしたことがあって、デンマーク人の方と仕事終わりに車で海岸線を走っていたときに、水平線に太陽が沈んでいったんです。とてもきれいでした。

田野内:はい。

ビューエル:その人は夕日を見て突然「芳子、これからピクニックをしよう」と。近くの海沿いのお店で、魚のフライとビールを買いました。でも仕事終わりですから何の準備もなくて、もちろんフォークも何もない。

田野内:ですよね。

ビューエル:「どうやって食べるの?」と聞くと、「手があるでしょ。手で食べればいいじゃない」って言われたんです。そのときには目から鱗でしたね。

田野内:手で食べたんですね。

ビューエル:そうなんです。「汚れたら手は洗えばいいでしょ」って言われて。フライはおいしかったし、サンセットがとてもきれいで、防波堤に座って脚をぶらぶらしていると、本当に気持ちよかったですね。

田野内:うんうん。その景色が目に浮かびます。

ビューエル:そこで思ったのは、今このときを楽しむっていうのが大切なんだなって。ピクニックセットに入っているバスケットとか、プレートとか、そんなものなくてもいいんですよ。形から入るのではなく、とにかくその瞬間を楽しむ。

田野内:そうですね。そうした生活の中にある心が動く瞬間を誰かと共有する、というのもヒュッゲにおいて大切なんですね。

ビューエル:はい。

田野内:ぜひ会場の皆さんも、気軽にヒュッゲしみてはいかがでしょうか。ビューエルさん、今日はありがとうございました。

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