2021.12.9

伊勢崎銘仙をアップサイクル 地域産業を持続させる事業のかたち

Ay(アイ)

多くの人が和服を着なくなった今、織物産業をめぐる状況は厳しく、新たな生地の生産もままならない産地も多い。そんな中、絹織物「伊勢崎銘仙」をアップサイクルしたワンピースやブラウス、パンツなどを企画販売し、若い世代を中心に着実にファンを増やすカルチャーブランドAy(アイ)。代表の村上 采(あや)さんにビジネスを始めた動機、今後の事業展開を聞いた。

新たな価値を生み出す ビンテージの伊勢崎銘仙

「デザインは常に“銘仙起点”です。2021秋冬コレクションでは、薄手の織物である銘仙を肌寒い時期にどう着てもらうかを意識しました」。大胆な柄と鮮烈な発色が特徴である伊勢崎銘仙を使ったワンピースやスカートを手に取りながら話す村上さん。20代前半とは思えない落ち着いた様子だ。

銘仙とは、明治期から北関東を中心に生産されている絹織物。伊勢崎銘仙は大正から昭和初期にかけて、全国の生産量の半分を占め、独自の併用絣(へいようがすり)で作られた生地が明治から昭和にかけてふだん着として、おしゃれ着として広く親しまれた。

第二次大戦後に洋装化が進むと、伊勢崎銘仙の売り上げや生産量は徐々に減少。現在の伊勢崎市では銘仙の新たな製造が難しい状況にある。

Ayの商品は過去に織られた伊勢崎銘仙を主にアパレル製品やクッションカバー、アートピースの素材として再利用し、新しい価値を創造(アップサイクル)する点が最大の特長だ。

一点もののビンテージ銘仙と現代の洋服との組み合わせは、大胆で鮮やかな柄が斬新でありつつ、どことなく懐かしさを感じる。「お客様が一番魅力を感じてくれるのは、まずデザインです。ファッション業界の環境問題に関心がある方は、アップサイクル、サステイナブルという点にも価値を感じて頂いています」。

取材当日は群馬県内初のAyのポップアップストアが開催中で、Ayのことを知らずにたまたま店舗の前を通りかかった女性も試着してくれた。「今のお客様は若者中心なので、上の年代の方にも知って頂けて嬉しいです。銘仙の柄には派手なものが多く、それを大胆にあしらったシャツに袖を通されていました」。

規格外品のレースを素材に 半年で新作をリリース

今回のコレクションの一つに、伊勢崎市内で生産された廃棄予定のレース生地を使用した黒のブラウスがある。「生地の端に白い糸が一本だけ混入した、C反と呼ばれるレース生地を使っています。生地の端を取り除けば美しさはそのままです」と村上さんは話す。

現在のアパレル業界には商品の大量廃棄が問題となっている。たとえば2018年にはイギリスの老舗ブランドが約42億円相当の売れ残り商品を焼却したことが明らかになり、大きな非難を浴びた。廃棄問題は製品になる前の生地についても同様だ。Ayのブラウスはこの流れに一石を投じている。

レース生地を生産している工場を、村上さんは県内のイベントを通じて知った。トップスとボトムスの両方に銘仙を取り入れるのはコーディネートの難易度が高く、ちょうど新しい軸の商品が欲しいと考えていたところでの出会いだった。

2021年の4月にレース工場と知り合い、10月には商品化。そのスピード感には驚かされる。「素材のリサーチは常に欠かせません。先ほどのレースのブラウスの胴体部分には、使用済みペットボトルをマテリアルリサイクルした生地を使っています。取引したい工場があれば、Ayのビジョンと実績をすぐにプレゼンに向かいます」。

そもそもAyは2019年、アフリカ・コンゴ民主共和国で村上さんが立ち上げた事業が前身だ。現地と協働し衣服を作りオンラインで販売していたが、新型コロナウイルスの影響で事業の継続が困難になった。

村上さんは地元に戻り改めて周囲を見つめ直すなかで、地域のなかの社会課題を解決する、持続可能な事業を立ち上げたいと考え、2020年の6月に株式会社Ayを設立。9月には伊勢崎銘仙をアップサイクルしたボトムスを販売するなど、抜群の実行力を持つ。

世界進出を視野に さらなる地域への還元を

Ayの洋服は全て伊勢崎市内で縫製され、製品タグにはしっかりと「生産:群馬県、日本」と記さている。村上さんが地元の縫製工場を一か所一か所、訪ね歩き協力を依頼している。現役大学生である村上さんの情熱とAyのビジョンと実績をしっかりと伝え、共感した企業と服作りに取り組む。

「今は小ロットでの生産ですが、もっと数を増やし、地元に大きくお金を循環できるビジネスに育ていきます」と村上さんは話す。Ayの洋服はシャツが2万円台からと、ファストファッションのように安価ではない。だが地域産業が持続していくためには、作り手が安定的に働くことができる価格設定も重要だ。

「お客様には、銘仙の着物をほどき反物にして、デザイン、パターン、裁断、縫製という工程一つひとつの手間や工夫についても伝えています」。たとえば、銘仙の反物は36センチ幅と規格が決まっている。大きさが限られているため、ひとつの着物から洋服が2、3着しか作れない。そのため、裁断も無駄がないように工夫しているという。

「海外への販売はブランドを立ち上げたときからの目標です。まずは普段使いしやすい銘仙のスカーフから始めようと考えています」と語る村上さんの視線は常に前へ前へと向いている。次の群馬県内でのポップアップストアは、2022年1月にecolab caféでの開催を予定している。村上さんと直に会話をして、Ayの魅力に触れるまたとないチャンス。ぜひ訪れて、実際に袖を通してもらいたい。

村上 采(むらかみ あや)
株式会社Ay
代表取締役社長

1998年伊勢崎市生まれ。慶応義塾大学総合政策学部教育・コミュニケーション学専攻4年在学(現在、休学中)。大学のプロジェクトの一環で2019年アフリカ・コンゴ共和国に2度渡航。現地と協働し、アパレルビジネスを立ち上げる。2020年6月に株式会社Ayを設立。「文化を織りなおす」をコンセプトに伊勢崎銘仙をアップサイクルした洋服やインテリア、アートピースなどを企画販売する。

参考ページ)
国際連行広報センター 国連、ファッションの流行を追うことの環境コストを「見える化」する活動を開始 2019年04月30日(最終閲覧2021年10月30日)
伊勢崎めいせん屋 銘仙に魅せられて
(最終閲覧2021年11月1日)
伊勢崎市 伊勢崎市の伝統産業
(最終閲覧2021年11月1日)
環境省 サステイナブルファッション
(最終閲覧2021年11月1日)

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